居酒屋「名なし」 仲本工事さん
 
  内装のイメージや業者の発注、進行まですべて自分で決めていくことからはじめた
 仲本さんが居酒屋「名なし」をオープンさせて今年で20年目。お店のある渋谷の街をにぎわしている若者たちと、ちょうど同世代ということになる。
 当時の渋谷は、現在のようにチェーン店の居酒屋が乱立する状況ではなかったと仲本さんは語る。
「ボクはお酒を飲まないんだけど、開業するなら絶対居酒屋だと決めてたんだ。この店がオープンするころの居酒屋といえば、オジさんたちが集まる『赤ちょうちん』のような店ばかりで、いまのように誰でも気軽に入れるような雰囲気の店は少なかった。でもボクのやりたい居酒屋のイメージはそうじゃなかった。店に通うオジさんたちが、奥さんも子供も連れてこられるような、アットホームな店がコンセプトだったんだ」
 オープンに際し仲本さんは、コンセプトだけでなく、内装やメニューの至るところに自分のアイデアを注ぎこんだ。これはいわゆる「名前貸し」のタレントショップとは、明かに一線を画すものである。
「ほかのタレントさんがどうかは知らないけれど、ボクは徹底して自分のイメージにこだわりたかった。だから内装に関しては設計、業者との打ち合わせ、作業日程などを全部自分でやりました。
 設計は『8時だよ全員集合』の舞台でイメージをイラスト化することをやっていたから、特別苦にもならなかったし、忙しかったけど、地方に行っていないかぎり毎日作業状況を確認するためにお店にも顔を出した。その場でチェックするのが一番早いからね。だから夜にお店にチェックしにいって、朝そのまま現場に入るなんてこともけっこうあったりもしたね。でもそのおかげで、わずか20日で店の内装は完成しましたよ。業者もボクもものすごい「突貫工事」だったってわけ(笑)」
 これだけ自分のイメージを大事にしながらも、けっしてひとりよがりのアイデアではないというのが仲本さん流の発想。それは店内のあちらこちらからも見受けることができる。
「たとえば天井は換気用のダクトを通すのに40pの厚みが必要なところを半分にさせたり、コンクリートの柱を隠すために変形の棚を特注で作ったりした。当然コストはかかるよ。でも、どうしてそうしたかというと、ボクはこのテナント自体の形を活かしたいと思ったから。あとはそれを活かしつつ、お客様の居心地のいい空間を作っていけばいいだけだと考えたわけ。
   たとえば店内のテーブルはカウンターも含め、8pか16pのどちらか。これには統一感という意味もあるけど、学校の机と同じ雰囲気にして懐かしさを演出したかったから。同様に、明るく温かい感じを出す丸形の照明も特注品です。清潔感が必要なトイレには、特別に高級なタイルを入れましたよ。最初からいいもの、考えたものを入れ込んだから、この20年内装で補修した部分はまったくありません。いまでもオープン当初と同じものを使っています。
 とにかくこの店はお客様に居心地のいい空間にしようと思ってね。そう考えればアイデアを盛り込んでも、ひとりよがりの発想ってことにはならないものだよね。」
 こだわりは内装だけでなく、メニューづくりにも活かされ、苦心して作り上げたメニューには、名物料理ばかりが並んでいる。
「内装は変わってないけど、さすがにメニューは変化しました。もちろん変わらずに残っている品もあるけれど、基本的にはメニューは年に2回は変えるようにしている。長年そうやってきた結果、ウチは人気メニューばかりがあるお店になっちゃった(笑)。
 ボクね、店の食べ物には自信を持ってるの。高級な食材なんかは使っていないけど、とにかく手間をかけて作っている。板前さんは仕込みが大変なんだけどね。その分、調理はシンプルにできるものにしている。
 メニュー自体を作るのは、さほど難しいことではないですよ。人気のないものは消していけばいいんだし。板前さんとよく話して、得意なものを作ってもらうことがコツかな。得意なものなら、おいしいはずだから。
 仕事で地方を回っていると感じるんだけど、いわゆるチェーン店のメニューって高いと思う。あまり手間のかかってないものばかりだしね。だからウチでは、メニューのボリュームと料金設定を考えて、2000〜3000円あれば飲んだり食べたりできるように設定したんだ」
   
  大手チェーン店にはマネできない人的サービスの充実が居酒屋経営のポイントになる
 そして仲本さんの話はサービス論へと移行していく。
「チェーン店の居酒屋さんは、マニュアル的な接客なんだよね。でもお客さんってつねに同じなわけじゃない。そこに接客の基本があるはずなんだ。だから個人経営の居酒屋は、チェーン店にはマネできない部分を打ち出していけばいいんだよね。
 ウチのスタッフは2〜3回来たお客さんの顔と名前をちゃんと覚えていて声をかける。お客さんはけっして悪い気はしないでしょ。そういった当たり前のことがお客さんの居心地を左右するんだよ。ボクはできるだけお店に顔を出すようにしているけれど、それはお客さんとスタッフを見て、気になった点を指摘するためでもあります。うんと細かいことだったりもするんだけど、そういった部分をしっかりやっていかなければ、チェーン店との競合なんてできないし、ましてや経営を維持していくことなんてムリだからね」
   仲本さんの経営観や考え方を聞くと、経営はかなりシンプルなようにも思える。しかしそれは20年間の経営で積み上げてきたノウハウと分析力によるもので、簡単に他人が真似できるものではない。
「これはボクの考え方だけど、ビジネスをやっていて楽しいことはないと思う。あえて感じるとすればここまで経営を続けてきたという達成感でしょう。でも日々お店は続いていくわけだし、そこで満足しているわけにはいかない。つねに新しいことを考えていかなければいけないからね。
   
  お客様に提供するサービスがよければ、自分の店だということが前面に出なくてもいい
 昨年、新しく女性専用エステのお店をオープンさせたんだけど、これはボクが日頃から健康や健康器具について研究していたことの延長線上にあるものなんだ。この業界については未経験な部分も多いので、まだまだ研究していくことが必要だけど、どんどん新しい技術を導入した機械も登場するので、気を抜いているヒマはありません。
 これもすべてお客さんにどれだけのサービスを提供できるかということに繋がっているのだと思う。ちなみに居酒屋の場合、ボクのお店だというフレコミを看板に出したのはオープンしてから2年後のこと。
  エステに関してはまだ名前を出す予定もありません。『ボクのお店』というのがウリなのではなくて、サービスがどれだけ充実しているかが大事なんです。ボクの店だということは、その付加価値としてあればいいと思っているわけ。
 自分の経験を活かせるもの、または自分がこうしたいと思う理想のもの。これから開業する人は、まずそこから考えるといいでしょう。そしてその二つが一致していたら、最高ですね」
   
 
【プロフィール】

なかもとこうじ

 昭和16年生まれ。ドリフターズのメンバーとしてあまりにも有名。そのバイプレーヤーぶりはドリフやこぶ茶バンドでのミュージシャンとしてだけにとどまらず、近年は役者としての活躍も注目を集めている。

 
【店舗データ】

居酒屋「名なし」

 東京都渋谷区宇田川町28-15サンマルジェ5F TEL03-3496-3473 営業時間18:00〜23:45 年中無休。渋谷センター街沿いという立地で、若者だけでなくさまざまな年齢層のお客さんが集うアットホームなお店。常連さんも多いが、はじめてのお客さんでも気軽に楽しめる。牛すじ煮込み、焼きオニギリが人気メニュー。


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